温泉コラム


野沢温泉源泉かけ流しの会会長 森行成自ら書き上げた【温泉コラム】の連載を掲載しています。

【温泉コラム①】

~なんと張出横綱~

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 世の中「何でもランキング」がはやっている。
売れ筋商品は何か。人気観光地は何処というように。温泉地の人気ランキングも人々の関心の的である。日本の「三大温泉地」「三名泉」「三御湯」などなど。取り分け江戸の昔から人気があったのは、相撲番付風に東西で競う「温泉番付表」。現代でも旅人や評論家の投票する番付表が旅行雑誌を賑わせるが、その最新版で野沢温泉はついに“横綱”にランクインした。

 自然科学の専門書「温泉学入門」(コロナ社、日本温泉科学会編)の温泉番付表(2010年)によると、東方の横綱草津(群馬)大関登別(北海道)張出大関銀山(山形)に対してなんと「張出横綱」が野沢温泉。因みに西方の横綱別府(大分)張出横綱湯布院(同)大関白浜(和歌山)張出大関城崎(兵庫)。いずれも数百万人が訪れる大温泉地に伍して、選ばれた。

 単なる人気投票ならば訪問客が多い大温泉地が有利だが、今回は温泉学専門の科学者が行司だったことに意味がある。そして温泉満足度日本一(じゃらん社)にも輝いた。温泉はやはりその泉質。私たちは源泉かけ流しにこだわる。


野沢温泉源泉かけ流しの会会長 森 行成 記

【温泉コラム②】

~もう一つの名所誕生~

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 ♪ ウサギ追いし かの山。小鮒釣りしかの川~(唱歌 故郷より)
 ♪ 菜の花畠に 入り陽薄れ。見渡す山の端 霞深し~(唱歌 朧月夜より)

 国文学者の故 高野辰之博士が残した数々の名作のモチーフとなった野沢温泉は、今に日本の原風景を色濃く残す村である。この村をこよなく愛した辰之は晩年を野沢温泉で過ごし、この他「春がきた」「春の小川」「紅葉」「日の丸の旗」などなど大正・昭和の懐かしい風情を歌い上げて逝った。

 その終焉の地に、野沢温泉の新しい名所が誕生する。源泉かけ流しの浴場施設「ふるさとの湯」(故郷の湯)である(12月15日オープン)。
そもそも、かつてブームを起こした「クアハウスのざわ」があった地。温泉が湧き出す「麻釜(おがま)」の直下。老朽化したクアハウスを解体して、野沢温泉で最も大きな「14番目の共同浴場(有料)」に生まれ変わった。一期工事で浴場を。二期工事ではビオトープを配した辰之の歌の世界を表現する公園が整備される。

 春。山々の芽吹きとともに菜の花が咲き、さらさら流れる小川の岸にスミレやレンゲが咲いて、ホタルやモンシロチョウが飛び交う。秋。見事な紅葉が山の麓の裾模様を描き、赤とんぼが舞う。冬。湯に戯れるスキーヤーの歓声など四季それぞれに懐かしい表情を見せてくれることでしょう。こうご期待!


野沢温泉源泉かけ流しの会会長 森 行成 記

【温泉コラム③】

~日本屈指の還元系温泉~

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 木枯らしが吹くころ、温泉が恋しくなる。冷えた体をゆっくり温泉に沈めると「ああ、良い気持ち。極楽々々!」。と、なるのは何故だろう?それは「温泉の還元性」にあることが最近の温泉科学が解明した。

 法律(温泉法)では硫黄とか炭酸とかある成分が含まれていることと、または25℃以上の温度があれば「温泉」という。ここでいう「還元性」は法律には規定されていないが、極めて重要な意味を持っている。地球から湧出した温泉(源泉)は、酸素に反応して時々刻々と変化し、エイジング(老化・劣化)が進む。つまり「酸化」し鮮度が落ちる。酸化は、鉄ならば錆びること。生ものなら腐敗、人間は老化することをいう。一方、酸化に対して元に戻そうと働く力が「還元」。この化学反応を「酸化還元現象」といい教科書でも教える。温泉の還元性を研究したのが大河内正一教授(法政大学生命科学)で、特に野沢温泉の温泉に注目「日本屈指の還元系温泉」の折り紙をつけた。

 人間の体は弱アルカリの還元系である。従って弱アルカリでかつ還元系の野沢温泉の温泉は、人体にもっとも優しい温泉なのである。温泉満足度日本一(じゃらん)や温泉番付の張出横綱(日本温泉科学会編)の根拠でもある。


野沢温泉源泉かけ流しの会会長 森 行成 記

【温泉コラム④】

~温泉の本質は「若返りの泉」~

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 実りの秋、りんごや柿の皮をむく度に「温泉」のことを思う。皮をむくと、りんごや柿はアッという間に黒ずんでしまう。それは空気中の酸素と化合してメラニンを生成する酸化現象(劣化)である。だから果物の「皮」は、果肉を酸化させまいとする防御機能、すごい抗酸化剤なのである。人間の皮膚も、同じようにすごい防御力を持っていて還元系の体を守っているのは知られている。ところが昨年の春、温泉業界に衝撃が走った。温泉が「体に効く」というなら、その成分が人間の皮膚を浸透するかどうか。その研究が学会誌(温泉科学)に発表されたのだ。発表者は法政大学生命科学部の大河内正一教授の研究室。野沢温泉の源泉(アルカリ性)と高湯温泉(福島)の源泉(酸性)を研究対象に皮膚浸透実験を繰り返した。

 結論から書くと、新鮮な温泉は「メラニンの生成を抑制し、成分が皮膚を浸透する」。しかし古くなった温泉は「メラニンの抑制も、皮膚浸透性もない」。温泉の命は湧出したての新鮮さにあり、その本質は「若返りの泉」(アンチエージング)と結論づけ、源泉かけ流しの優位性を証明した。


野沢温泉源泉かけ流しの会会長 森 行成 記

【温泉コラム⑤】

~温泉をサイエンスの目で見極める~

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 野沢温泉では当たり前のように使われている「源泉かけ流し」ということばは、全国的には極めて珍しい“新語“である。長~い長い温泉の歴史から、その利用実態が変わったのはわずか半世紀も満たない。近代科学の技術進歩、いわゆる文明の利器は温泉の循環・ろ過、消毒、加温加水と利用の多様化を可能にしたからだ。政府のある調査では、温泉旅館ホテルの90%が何らかの加工をしている。また本当の源泉かけ流しは「たった1%」というジャーナリストもいるくらいだから、「源泉かけ流し温泉」はいまや日本の希少価値である。

 野沢温泉の「源泉かけ流し宣言」を後押ししてくれたのは法政大学生命科学部の大河内正一教授とそのグループである。教授は「水の博士」として名高く、急成長する水ビジネスに潜む「ニセ科学」をきびしく指摘した研究者。温泉への造詣も深く、昨年は政府(環境省)から、温泉功労者として表彰された。

 教授の研究テーマである「温泉の還元性」についての素材は野沢温泉村の「温泉」が使われ、毎年のように科学学会に発表される。一昨年、野沢温泉村で開催された第63回日本温泉科学会総会(森行成実行委員長)へのアドバイスも多く頂いた。

 全国の有名温泉地には研究者による科学調査が必ず存在するが、驚いたことにその研究資料は地元にはない。野沢温泉も例外ではなく、ほとんどが散逸していた。そこで日本温泉科学会開催を機に、野沢温泉研究の二つの科学冊子を収録編纂した。一つは今回発表された4つの論文。歴史文化(石川理夫)、地球物理(江守健太ら)、温泉の特性(大河内正一)、酸化還元電位(森本卓也ら)。そしてもう一つは過去の研究誌(歴史と解説)である。

 二つの科学論文集は野沢温泉の温泉に係わる将来に、大きな財産となるだろう。まだ余部が残っており、関係者への配布は可能という。希望者は野沢温泉観光協会(0269-85-3155)または野沢温泉旅館組合(0269-85-2056)へ。


野沢温泉源泉かけ流しの会会長 森 行成 記

【温泉コラム⑥】

~温泉文化から温泉地の価値を考える~

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 文化国家、文化勲章、文化的価値などなど、何気なく「文化」ということばを使い、何となく納得していた「文化」「温泉文化」ってなんだろう。

 (社)日本温泉協会の広報機関誌「温泉」は年6回、会員や自治体に配布される。一冊ごとにあるテーマが特集され、関係者には貴重な情報誌だが、年間テーマの大型企画は「温泉文化」。この一月発行の文化論。「ある温泉地の話から始めたい」という書き出しで、いの一番に野沢温泉が取り上げられた。執筆者は石川理夫氏(温泉評論家)。

 温泉街の景観、情緒。外国人への対応、外湯、惣代組織などに触れながら「ニッポンの温泉地の現在進行形の一例と言えるだろう」と総括。一般の観光地とはふた味も三味も違う温泉地の魅力に迫る。何よりも「湯」の力。そして街並み・景観や人の営みが蓄積された「場」の力。それにおもてなしの「力」。そうした三つの力がトリプルに発揮されて、ニッポンの温泉地の持ち味、奥深さを論じる。

 温泉地で生活する住民にとって日常が「当たり前のこと」で、優れた文化的恩恵への気付きが薄いかも知れない。先の温泉番付「張出し横綱」といい、温泉文化といい、私たちはもっともっと故郷に自信を持ってもいい。注目度“日本一”だから。

 そういえば、英語のカルチュア(文化)の語源カルチベイトは「耕す」である。いまある文化価値をしっかり見直すこと、「耕し直すこと」が未来に営々と続く野沢温泉をつくることになる。


野沢温泉源泉かけ流しの会会長 森 行成 記

【温泉コラム⑦】

~温泉文化から温泉地の価値を考えるⅡ~

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 東日本大震災から一年。あれ以来、激減している訪日外国人観光客だが、野沢温泉の温泉街では以前のような賑わいが見える。詳しい数字はまだないが、戻り気配のようである。

 開館から40日で年間予想一万人の入館者を越えた「ふるさとの湯」(麻釜温泉公園)も外国人に大人気のようで「湯船を占領されたような光景」も度々とか。うれしい話だ。

 日本は「世界一の温泉大国」とよくいわれる。日本全国に散らばる温泉地は約3200ヶ所。温泉旅館ホテルなど入浴施設は約2万。年間1億4千万人が温泉につかる。なんと全人口を越えるほどの「温泉好き」の国民。「世界一」といわれる所以である。でも、外国人も「温泉好き」ということは意外に知られていない。日経新聞社発行の経済誌「消費マイニング」によると、外国人が日本に行く一番の目的は「温泉につかる」ことという(別表)。アジアの主要六都市で五年ごとに実施される調査で、いつもトップは「温泉につかる」。ソウル(韓国)上海(中国)は一番。香港、北京(同)台北(台湾)は二番目。全体では1位「温泉」(54.1%)。因みに2位「文化的歴史的建物の見物」。3位「名物の食事」4位「買い物」5位「雄大な自然」の順。定番の東京・京都・富士山ではなく、日本への憧れは「温泉」なのだ。

 外国にも温泉はある。では日本の何が魅力なのか。「日本独特の温泉文化」という。人々に守られ培われた温泉、湯治や裸の入浴法、温泉街など歴史的所産などなど。人の力、温泉の力、場の力。文化とは「宗教、道徳、学芸など人間の生活にかかわる精神的・内面的所産」(広辞苑)とある。野沢温泉の人気はどうやらその辺にありそうだ。


野沢温泉源泉かけ流しの会会長 森 行成 記